毒ガス撤去に関する書類 (5) 毒ガス持ち込みに反対する米国市民の書簡

総務局 毒ガス撤去対策本部の「毒ガス撤去に関する書類」から、毒ガス持ち込みに反対する米国市民の書簡と、それに対する琉球政府の返信を紹介します。

沖縄に持ち込まれていた毒ガスがジョンストン島に移送されることが決定されるまで、米国政府は、米国本土のワシントン州やオレゴン州への移送を検討していました。こうした事情を背景に、毒ガスの受け入れ拒否を主張する米国の市民団体などは、琉球政府に対して毒ガス移送に反対する書簡を送付しました。

 

神経ガスに反対する人の会から

次の文書は、屋良朝苗行政主席に宛てられた1970年4月19日付 “People Against Nerve Gas”(神経ガスに反対する人の会)シアトル支部の書簡です。

「神経ガスは沖縄の人々及びアメリカ人に対すると同様、あらゆる人々に対して脅威であることは明らかであります」としたうえで、ワシントン大学の約50人の科学者たちが毒ガスの輸送に懸念を表明していること、そして20万人以上もの人々が毒ガスの輸送を中止するようニクソン大統領に陳情書を送っていることが記されています。

ここでは、屋良主席に対して、「神経ガスを沖縄において中和するよう公式な声明」を発表するよう要望しており、そうすれば「輸送に反対する我々にとって」の「絶大なる御支援」になり、さらには、神経ガスが「将来において再び秘かに沖縄に持ち込まれないように保証される」とも述べています。また、屋良主席の「御援助」は、「太平洋北西海岸の住民にとってこの上ない重要なもの」であるとも記されています。

 

国際荷役倉庫労働組合連合会から

このほか、オレゴン州にある “International Longshoremen’s and Warehousemen’s Union”(国際荷役倉庫労働組合連合会)という団体も、1970年4月22日付で、屋良主席に書簡を送っています。

この書簡もまた、オレゴン州、ワシントン州において、毒ガスの移送中止を求める声が高まっていることを伝えています。

また、両州知事が国防長官を相手どって連邦裁判所に提訴したものの、毒ガス兵器の船積みが中止される保証はないとして、「米国の国務省、国防省に、この恐ろしい致死兵器の移送を中止させ、現場で毒ガスを消去するよう要望するに説得力と威信をもっているのは貴殿であり、貴殿以外にないと信じています」と、沖縄での毒ガスの「消去」を米国務省・国防省に要望するよう、屋良主席に訴えています。

 

琉球政府の返信

琉球政府は1970年5月12日、これらの書簡への返信である「神経ガスの措置に関する米国二団体の要請に対する声明について」を決裁しました。

その冒頭には、「貴殿並びに貴地住民が米国防省の神経ガス移送計画について懸念を示し、それに反対していることに理解と御同情を申し上げます」とあります。なぜなら、「米軍が保有する神経ガスは沖縄及び米国民を含めすべての人々にとって脅威」であるからです。

続けて、沖縄住民は、「このような恐しい兵器が沖縄に貯蔵されているという事実」を新聞によって知らされて以降、「いつ再び事故が発生するかも知れないという不安から」、「毒ガスを即時撤去するよう要求しつゝ゛けて」いるにもかかわらず、「米軍は撤去を公表しつゝもその時期を遅らせ、住民の不安と怒りをつのらせて」いるばかりか、「事故が発生した場合の沖縄住民の生命に対する安全措置については今日まで何らとられていません」と記されています。

ここでは、「私どもは毒ガス兵器の製造、貯蔵及び使用に反対する立場にあり」、「貴殿と同様、このような兵器は中和され廃棄されるべきであると考え」るとして要請に理解を示しながらも、「沖縄住民に対する安全上の対策が今日までとられず、かつ、今後も米軍の確たる約束をとりつけることができない現状」においては、「沖縄での中和作業を要求することは、住民感情からして、できません」とあります。

同時に、「貴殿と私どものそれぞれの要求がこのような兵器の全面的な禁止へと発展することを期待します」との記述も見られ、毒ガス兵器の「全面的な禁止」への願望が見てとれます。

 

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