ねずみ駆除大作戦1951 ~ 新殺鼠剤ワルファリン

『軍ヨリ受領セル文書』沖縄群島政府厚生部(R00001115B)

琉球政府以前の「沖縄諮詢会、沖縄民政府、沖縄群島政府に関する書類」から、「齧歯類動物駆除に関する報告」というねずみ駆除に関する文書を紹介します。

米国民政府(USCAR)陸軍長官の専門顧問であるラルフ・イ・ドテイは、90日以上も沖縄に滞在し、沖縄の状況に適したねずみの駆除計画、特に新殺鼠剤ワルファリンの実用化について研究しました。この文書は、ドテイが米国民政府宛てに提出した報告書を、米国民政府が1951年9月4日付で沖縄群島知事に送ったもので、『軍ヨリ受領セル文書』(R00001115B)に収められています。

この報告では、ねずみの駆除方法を検討したうえで、伊計島における全部落を挙げての殺鼠剤ワルファリンの使用運動について述べています。ワルファリン(ワーファリン)は、人の血液を固まりにくくする薬として用いられますが、殺鼠剤としても使用されるようです。

 

沖縄は「鼠の天国」

報告書の「一、序文」に続く「二、要点」で、「鼠の駆除は沖縄に於て焦眉の急を要する問題」だとされています。米国民政府が作成した1950年の統計によると、ねずみによる「栽培中及貯蔵中の食糧の損失」は7,400万円(B円)にも達していたようです。

続けて「三、駆除方法」では、「鼠除けの設置及隠れ場所の除去」、「鼠捕り器」の使用、「殺鼠剤」の使用について検討されています。

「鼠除け」は、食糧会社の倉庫といった「商業用建物」には強制的にでも設置すべきとしますが、個人住宅では、「住民の低い生活水準及建築資材の欠乏に依り」当分の間は難しいとされました。

「隠れ場所の除去」については、「重要であるが、然し困難な駆除手段」とされています。「使えそうだと思われるありとあらゆる資材で貧弱に建てられている」終戦直後に作られた「仮小屋」や、「家々を取囲んでいる大きくて隙間の多い珊瑚礁石を積み重ねた塀」など、沖縄にはねずみの隠れ場所となるところがとても多かったからです。「周囲には多くの塵芥をちらかし、茅や瓦で屋根を葺いた開放式の住宅や仮小ヤは、沖縄をしてまぎれもない鼠の天国たらしめている」のでした。

「鼠捕り器」も限られた効果しかなかったとされ、「唯一の実用的且効果的駆除方法」とされたのが、殺鼠剤の使用でした。特に、ワルファリンという新しい殺鼠剤の効果が検討されています。

 

新殺鼠剤ワルファリン

ワルファリンは、ねずみ駆除用の薬剤として、一か月にわたる研究と実験の結果から、島内のねずみを退治するための「規格殺鼠剤」として推奨されました。報告に記されている主な殺鼠剤の特徴を表にしてみました。

殺鼠剤名 メリット デメリット
ワルファリン
  • 効力が大きく鼠に好適にできている。
  • 安全なので人口稠密地帯にある家の周囲でも安心して使える。
  • 誘餌の中にあっても嗅ぎつけることができない。
  • 犬・猫などが誤って一回分の用量を食べても死に至るようなことはない。
猫が毒を服したねずみ数匹を常食にすれば死んでしまう。(効果的な解毒薬はビタミンK)
1080号    迅速な殺鼠効果がある。 人命に危険を及ぼすため熟練した人だけが使用できる。
アンツウ
  •  ノルウェーねずみを撲滅させるのに1080号より安全。
  • 厚生部に手持ちがあるため当分の間ワルファリンの代用として使用できる。
 普通褐色のノルウェーねずみに対してのみ効果的。

ワルファリンは、他の殺鼠剤と比べて、ねずみに対する効果が高いうえ、人間に対しては無害で安全だとされたことから、ねずみ駆除運動における必須の新殺鼠剤として注目されています。「琉球列島米国民政府厚生部はワルファリン1000程度を発注しており8月の或時期には配達される予定である」との記述もあります。

また、ワルファリンと一緒に使用する「餌」の重要性についても記されています。嗜好試験を15回行った結果、「鼠の嗜好と人間のそれとが一致することが確定され」、最も好まれる餌は米、次に新鮮な甘藷で、米ぬか・とうもろこし・おし麦は「気に入られ方が少なかった」とあります。

ねずみを引き寄せるためには、人間が好むような「品質の良い」餌でなければならなかったようです。

 

伊計島での殺鼠剤使用運動

1951年6月15日、伊計島で全部落を挙げての殺鼠剤ワルファリンの使用運動(実地試験)が行われました。13日後、「約500匹の死んだ鼠が村人によって摘出され」、食べ尽くされた餌の量から2000~2200匹のねずみが退治されたとされました。

  この結果は、運動を続ければ、島から全てのねずみを駆除できることを示していると評価され、実地試験は「目覚しい成功を収めている」とされました。

その半面、「副中毒」により15匹の猫が「とばっちり」を受けて死んだことも記されています。これは、毒に当たったねずみは全部埋める、猫が死んだねずみを食べようとするのを防ぐために「臨時食餌」を与えるという注意事項を村人が守らながったために起こったとされています。

米国民政府は伊計島でのワルファリン使用運動の結果、「ワルファリンが、その効果適面であり、併せて、人間に対して無害であるという理由で、沖縄の部落に於て使用可能なることを実地で示した」としています。そして、「学童達を動員し自分達の部落に於ける駆除運動を援助させ」るなど「害虫及鼠駆除の教育計画実施」に着手することの必要性を述べています。

報告は、「鼠駆除作業は、離れ離れの突発的なやり方でなく寧ろ、不断の努力を続けていけるやうな基盤に立って、組織化しなければならないということを更に強調しなくてはならない」と結ばれています。

 

共同昆虫及齧歯動物駆除委員会

その後、1951年10月3日に米国民政府が沖縄群島知事に宛てた文書からは、「共同昆虫及齧歯動物駆除委員会」が創設されたことを知ることができます。

委員会を構成する機関とその代表者は次の通りでした。

  • ライカム軍医事務所 – 予防医務課
  • ライカムポストエンジニヤー – 昆虫及齧歯動物学者
  • 第20空軍 – 昆虫及齧歯動物学者
  • 第20空軍 – 基地航空作戦空中霧吹課
  • 第824陸軍部隊 – マラリヤ検査課昆虫学者
  • 琉球列島民政府 – 公衆衛生社会事業昆虫学者
  • 沖縄群島政府 – 厚生部

 

原文も読んでみよう

ここまで紹介してきた文書は、沖縄群島政府が日本語に訳したものですが、米国民政府が作成した原文が、渉外広報部 文書課の『対米国民政府往復文書 1951年 9月~12月 発送・受領文書』(R00165465B)に収められています。

「Report on Rodent Control」

「Joint Insect and Rodent Control Board」

 「Report on Rodent Control」では、伊計島での実地試験(Demonstration Experiment)の際、約90人の生徒が、ワルファリン入りのピーナッツバターの誘餌240ポンドを盛った527皿をまいた(distribute 527 pans filled with 240 pounds of rice-peanut butter bait poisoned with Warfarin)との記載がありますが、この箇所は和訳された文書では省略されています。

ぜひ原文もあわせて読んでみてください。

【関連記事】 資料紹介 > ねずみ駆除大作戦1967 ~ 一斉駆除週間とイタチ

 

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