物価調査にみる庶民の暮らし

琉球政府文書には、企画局統計庁やその前身部局が作成した、卸売価格や小売価格など物価に関する調査表が残されています。

お米や麺、魚、野菜、肉類、乳製品、調味料などの食卓の必需品からはじまり、お菓子、酒や煙草などのし好品、茶などの飲料、衣料、食器、化粧品、学用品、映画観覧料にいたるまで数々の品目があり、暮らしのみえる資料といえましょう。

 

1958年の調査にみる物価上昇

小売物価調査報 1958年01回~04回』(R00008106B)に収められている、1958年9月の小売物価調査結果票には、ドルとB円の両方の表記があります。

これは1958年9月16日から20日にかけて、B円からアメリカドルへの通貨切替えが行われたためです。政府は同年9月24、25日に調査したものを、「小売物価調査速報」として「暫定的」とした上で公表を行ったようです。

「小売物価調査速報」には、那覇市・コザ市・名護町・平良市・石垣市の特色も書かれています。

那覇市では、主食に対して非主食指数が上昇し、また理髪料・ノートブック・映画観覧料の値上がりが目立つ。コザ市では、那覇市と同傾向で乳卵類・調味料・飲料が上昇をみせており、那覇市と比較して目立つのは光熱費と雑費指数の上昇…といった具合です。

その中で興味深かったのは、名護町は「あずき、こぼう、きうり、にがうり」が20%以上値上がりし、「沢あん、アンパン、まんじゅうのB円価格をそのままセント価格にした値上がりも見逃すことはできない。那覇市、コザ市で殆ど変動のなかつた被服費の上昇も面白い」という記述です。

また平良市でも、「主食ではビルマ米、干うどん、甘藷、食パンのB円価格をそのままセント価格にしたのが大きく影響しているのが注目され」とありますから、高等弁務官布令第14号「通貨」 (高等弁務官布令/High Commissioner Ordinance 1957年~1969年 第001号~第063号RDAP000030)に定められた、1ドル=120B円という本来のレートを守らずに、1ドル=100B円とした品目もあり、物価上昇を招いているようです。

石垣市は、総合指数でほとんど上昇が見られないのは、島産米の値下がりが大きなウエイトを占めたためとし、非主食や衣料品、文具などの値上がりも見られるとあります。

 

実際の価格で暮らしをのぞく

引き続き『小売物価調査報 1958年01回~04回』(R00008106B)から、「消費者物価指数計算票」の1958年9月2期「比較時価格(P1)」(那覇市)を、ドルで見てみましょう。価格の単位は$(ドル)・¢(セント=1/100ドル)です。

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1斤(600g)あたりの価格は、島内産精米14¢、小麦粉8¢、素面8¢、まぐろ83¢、たかさご(グルクン)23¢、牛肉58~67¢、にがうり(ゴーヤー)9¢、食塩8¢、味噌15~17¢、白砂糖18¢。

重さで一律に比較できないものとしては、牛乳(1合=180cc)7¢、鶏卵(1個)5¢、味の素(1個)54¢、まんじゅう(1個)2¢、あんぱん(1個)5¢など。

煙草(1個)はピースが9¢で一番高いドミノは14¢。

1回あたりの価格で比較できるものは、映画観覧料35¢で、演劇観覧料25¢、入浴料8¢、パーマ料1$60¢。

 

 

1958年当時の庶民の暮らしが見えてきます。

 

庶民のお楽しみ、お酒類

お酒類はどうでしょう。1本あたりのサイズがまちまちなので、比較が簡単ではありませんが、まずは書き出してみます。清酒(1升)3$、ビール(4合)50¢、泡盛(2合)17¢。

比較のために、これを1合(180cc)当りに換算すると、清酒は30¢、ビールは12.5¢、泡盛は8.5¢ということになります。やはり泡盛は、庶民の味方です。

お酒といえば、もうひとつ比較したい簿冊があります。『那覇市消費者物価指数結果表 1964年』(R00009518B)です。

1964年1月分の指数計算表(那覇市)では、酒類が6品目に分かれています。

Ⅰ本あたり泡盛(360cc)17¢、焼酎(633cc)27¢、清酒(1800cc)2$91¢、ウイスキー(640cc)1ドル80¢、ビール(633cc)は2種あり、県産品とその他に分かれているのでしょうか、45¢と58¢です。

これも同じように1合(180cc)当りに換算すると、清酒は29.1¢、泡盛は8.5¢、焼酎は7.6¢、ウイスキーは50.6¢、ビールは12.8¢と16.5¢。

6年前の1958年と比較すると、清酒は若干安くなり、泡盛は変化なし、ビールはやや高くなりました。初出の焼酎は泡盛よりかなり安く、ウイスキーは一番高かった清酒よりもさらに高いということになり、お酒も多様化しています。

こうして物価を見ていくと、なかなか面白いものです。

 

ここで紹介した簿冊は、企画局 統計庁の「卸売物価調査、小売物価調査、輸出入物価調査及び消費者物価調査に関する書類」というシリーズにあります。

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