『本土法適用に関する準備措置』― 復帰前の沖縄と本土の法制度の比較

沖縄は、四半世紀にわたって日本政府の管轄から外れ、米国が施政権を行使するという特殊な地位にありました。その間、沖縄は、米国大統領行政命令や米国民政府による布告・布令・指令、琉球政府立法などのもとにありました。

1969年11月21日、佐藤・ニクソン共同声明により、72年中の沖縄の施政権返還が発表されて以降、日本政府および琉球政府は、沖縄に本土法を適用するための様々な調査を実施します。

 

『本土法適用に関する準備措置』(全4巻)

その成果の一つに、琉球政府の企画局企画部が1970年6月に作成した『本土法適用に関する準備措置』(全4巻)という冊子があります。

各巻の内容は、次のようになっています。当館では、第1巻から第3巻までを所蔵しています。

 第1巻  憲法、国会、行政一般、地方制度、司法・法務、民事法、刑事法、警察・消防
 第2巻  教育・文化、厚生、労働、財政、租税・専売、金融
 第3巻  産業一般、農林水産
 第4巻  商工、運輸、郵政、電気通信、建設、外事

各巻の冒頭には、冊子の見かたや内容についての説明があります。

これによると、『本土法適用に関する準備措置』は、「沖縄が本土に復帰する際、現行本土法を沖縄に適用することに当って、できるだけ混乱がおきぬようその準備措置について基本的な考え方をまとめたもの」です。

また、「今後日本政府との調整を必要とするもので、従ってその調整過程において修正又は変更を必要とすることもありうる」とあり、琉球政府の最終的見解ではないことも記されています。

 

索引の見かた

以下では、第1巻(R00006670B)を例に、『本土法適用に関する準備措置』の内容を紹介します。

全4巻の目次に続く部分は、本土法、沖縄法、講ずべき措置の分類などが一覧となっていて、索引としての役割を果しています。

「講ずべき措置」はDからHに分類されていますが、これらは本土法適用にかかわる措置方法の違いを示しています。例えば、Dは、本土法を直ちに適用する「即時適用」を表します。

D 即時適用 直ちに本土法を適用しても特別に講ずべき措置を必要としない、いわゆる「即時適用」
E 経過措置 本土法を適用した場合、自動的に必要となる、いわゆる「経過措置」
F 暫定措置 沖縄の特殊事情にもとづき、一定期間または当分の間、特別な措置を必要とする。いわゆる「暫定措置」
G 特例措置 沖縄の特殊事情にもとづき、相当長期間にわたり特別な措置を必要とする、いわゆる「特例措置」
H 保留 現段階においては、D~Gのいずれとも判断しがたい、いわゆる「保留」

また、「法」「政」などの印は、復帰によって沖縄に適用される本土法の形式を示しています。例えば、「法」は「法律事項」、「政」は「政令事項」を表します。

法律事項 訓令事項
政令事項 告示事項
規則事項 要綱事項
省令事項 通達事項

 

索引からわかること

この索引にあたる部分では、本土と沖縄の法制上の違い、講ずべき措置に関する琉球政府の見解が通覧できます。

例えば、「刑法」の項目中に、本土法として「売春防止法」(昭31・法118)があります。一方の沖縄には、対応する法がありません。

同法に関する「講ずべき措置の分類」が、D(即時適用)の「法」(法律事項)となっていることから、本土の「売春防止法」という法律を、復帰後ただちに沖縄に適用すべきと琉球政府が認識していたことがわかります。

また、本土法の「日本国憲法」(昭21)に対応する沖縄法としては、「琉球列島の管理に関する行政命令」(1957・行政命令10713)、「琉球列島米国民政府に関する指令」(1952・極東軍総司令部指令)、「琉球政府章典」(1952・米国民政府布令68)などが記されています。

日本国憲法は、他の法律と異なり、「講ずべき措置の分類」が空欄のままで、本体部分にも記載がありません。これは、施政権が日本に返還されれば、憲法の適用に例外がありえないためだと思われます。

主権在民をうたう日本国憲法が施行されている本土と、大統領行政命令や米国民政府の布告・布令・指令などのもとにある米国統治下の沖縄との法制度上の相違点が、鮮明に見えてくるようです。

 

復帰前の沖縄法と本土法の適用:道路交通法を例として

それでは、「道路交通法」を例として、米国統治下の沖縄と本土との相違点、琉球政府の本土法適用をめぐる方針について見てみましょう。

まず、索引にあたる部分の「警察」の項目中に、本土法の「道路交通法」(昭35・法105)があり、対応する沖縄法は、「道路交通法」(1963・立法109)という同名の琉球政府立法です。

「道路交通法」の「講ずべき措置の分類」は、E(経過措置)とF(暫定措置)になっています。

次に、本体部分には、「本土と沖縄との制度の相違点」として、1. 通行区分、2. 車両の速度、3. 免許証の様式、4. 免許の拒否、保留等、5. 免許の取消、停止等、6. 罰則、の6点が挙げられています。

  復帰前の沖縄では、通行区分は、本土とは逆で車が右側、車両の速度は、キロメートルではなくマイルを単位としていました。

免許証の様式については、本土では「警察庁のコンピューターによって全国のものを集中管理」しており、「電計作業を前提とした様式」だったのに対し、沖縄では「手作業を前提とした様式」でした。また、免許の拒否や保留、取消や停止などの処分基準について、本土が点数制度だったのに対し、沖縄では当該違反と前歴となっていました。

   「講ずべき措置」をみると、本土法を適用した場合に自動的に必要となる「経過措置」として、「琉球政府公安委員会が交付した運転免許証は、一定期間有効とする措置を講ずること」、「法律施行前にした行為に対する従前の罰則規定の適用」などが記されています。

「暫定措置」としては、通行区分などが挙げられています。復帰前の沖縄の通行区分は、歩行者が左側、車は右側でしたが、琉球政府は、「通行区分は、保安施設、道路施設、教育等の対応措置を講じ、混乱を防止する必要があるので、一定期間従前の例によるものとする」としています。

よく知られているように、沖縄では復帰後も車の右側通行が続き、それが本土と同じ左側通行に変わったのは、復帰から6年が経った1978年7月30日のことでした。この通行区分の変更は、「730(ナナサンマル)」の名称でおなじみです。

 

このように、『本土法適用に関する準備措置』は、復帰前に施行されていた沖縄法と本土法との相違点、復帰後に本土法を適用するにあたって講じるべき措置についての琉球政府の考え方を通覧できる資料です。本土法と沖縄法が並置され、その違いが簡潔に説明されていることから、当時の沖縄の法制度の概要や独自性を、本土との比較を通して容易にみることができる点でも、便利な資料といえます。

 

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