『本土法適用に関する準備措置』ができるまで
1970年6月、琉球政府は日本政府の求めに応じて、沖縄と本土との法制度上の相違点や、本土法の適用にあたって講ずべき措置を『本土法適用に関する準備措置』(全4巻)という冊子にまとめました。
その内容については、『本土法適用に関する準備措置』―復帰前の沖縄と本土の法制度の比較 をご覧ください。
ここでは、この『本土法適用に関する準備措置』が作成されるまでの関連文書を、琉球政府各局の簿冊から紹介します。 |
日本政府からの調査依頼
1969年11月21日の佐藤・ニクソン共同声明で、72年中の沖縄返還が発表された直後より、日本政府は返還に向けた様々な調査を行います。
同年12月17日付で、日本政府沖縄事務所は琉球政府行政主席に宛てて、「行政機構等制度全般にわたる復帰準備に関する調査について」という文書を発しました(復帰対策室『本土法適用準備措置 1970年』R00098592B 所収)。
日本政府では、総理府特別地域連絡局を中心に、各省庁や日本政府沖縄事務所が一体となって、「行政機構をはじめ制度全般にわたる復帰準備に関する各種の調査作業を総合的に実施」することになり、日本政府沖縄事務所としては、琉球政府の意見を「十分に勘案してこの作業を進めたい」と記されています。 |
琉球政府に対しては、日本政府の作業と対応して関係事項の検討を開始し、「適宜緊密な連絡をはかつて意見の提示を願いたく、関係部局への周知徹底等特段の御配慮を煩わしたい」としており、調査項目の一つに「復帰時における本邦の法律適用に関する調」がありました。
企画局による各局への説明会
日本政府の依頼に応じて、琉球政府では企画局が主体となって、この本土法の適用に関する調査をとりまとめることになりました。この調査について、企画局は、各局に向けた説明会を12月24日に開催しています。
下の「「本土法適用に関する準備措置」の成案までの経緯について」という文書は、この説明会に参加したとみられる文教局の担当者が作成したメモです(文教局『本土法適用準備措置関係』R00163392B 所収)。
これによると、調査書の作成について、「企画局から公文で送付された様式に従い、1970年1月末現在のすべての本土法律について、沖縄の現行法と比較して、復帰時に本土法を適用した場合の経過措置、暫定措置、特例措置等について記入する」との説明がありました。
また、「場合によって超勤等もして、努力してもらいたい」との要望もあり、喫緊の作業として調査書の作成に着手されたことがうかがわれます。
企画局から各局への調査依頼
企画局は、説明会の翌日にあたる12月25日付で「「本土の法律の適用に関する調査」依頼について」を発し、1970年1月末日までに調査結果を提出するよう各局へ依頼しました。下の文書は、総務局に送られたものです(総務局『本土法適用に関する準備措置 1970年~1971年』R00000500B 所収)。
「本土および沖縄において、それぞれ対応する法律がないもの」や「既に本土の法律との一体化を行なった沖縄の法律」についても記入すること、 「関係法令」として「当該法律の施行令、施行規則のほか、本土と沖縄の法制度を比較するうえで必要な要綱等も記入する」ことなど、指定の様式への記入方法が詳しく指示されています。
各局から企画局への回答
企画局から依頼を受けた各局は、担当業務に関連する本土法と沖縄法の相違点を調査し、企画局に回答しました。
1970年2月13日付の下の文書「本土の法律の適用に関する調査」は、総務局が企画局に回答したものです(総務局『本土法適用に関する準備措置 1970年~1971年』R00000500B 所収)。
指定の様式にしたがい、本土法と沖縄法を並べて、両者の相違点や講ずべき措置などが記されています。
企画局がとりまとめて局長会議へ
各局からの回答を取りまとめた企画局は、その結果を4月2日の局長会議にはかるよう、3月31日付の下の文書で総務局に依頼しました(復帰対策室『本土法適用準備措置 1970年』R00098592B 所収)。
局長会議録によると、4月2日の局長会議では、「本土法適用に関する調査(その要約と問題点)」が協議事項となっています。これは「各局から提出された事項のうち、局長会議の判断を要する重要事項だけを列挙したもの」で、「県益及び既得権を守ること」を「基本方針」に作成されました。これについて、「各局の調査と照合し、重要事項がぬけていたら、(中略)補強して完ぺきなものにしていただきたい」とあり、「来週早々検討に入る」ことになりました(総務局『局長会議録 1971年01月~12月』R00001305B 所収)。
「本土法適用に関する調査―その要約と問題点」について、次に局長会議録に記載があるのは、1カ月半ほど後の5月14日です。
この日の会議録には、「問題となる点を列挙してあるので各局で検討していただきたい」、重要でない事項については「事務レベルで処理できると考える」とあり、結論として「後日の局長会議において検討する」と記されています(総務局『局長会議録 1971年01月~12月』R00001305B 所収)。
大急ぎで印刷へ
他方で、企画局は、5月27日付で「「本土法適用に関する準備措置」の印刷製本について(伺)」という文書を決裁しています(復帰対策室『本土法適用準備措置 1970年』R00098592B 所収)。
ここには、「年度内に納品されねばならないが、数量が多いため至急依頼する必要」がある、「原則としては、局長会議の審議を経て印刷すべきですが、審議の結果、内容に変更修正があれば、印刷の段階で修正する」とあり、大急ぎで印刷製本にとりかかった様子がうかがえます。
復帰前の沖縄では、7月から翌年6月までの会計年度が採用されていました。「本土法適用に関する調査―その要約と問題点」は、6月7日の局長会議で協議されていますが、年度末の6月までに納品されるためには、それより前の段階で印刷製本に回す必要があったものと思われます。
『本土法適用に関する準備措置』(全4巻)は、このようにして1970年6月に完成し、日本政府へ提出されました。
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