戦後初期会議録

組織名
沖縄諮詢会
開催日
1945年08月15日 
(昭和20年)
会議名
仮沖縄人諮詢会設立と軍政府方針に関する声明
議事録
仮沖縄人諮詢会設立と軍政府方針に関する声明(別紙)
 (この声明は一九四五年八月十五日石川市に招集された仮沖縄人諮詢会に対する米国海軍軍政府副長官ムーレー大佐の声明である。)
一、本官は軍政府副長官として沖縄に対する軍政府の方針、該方針遂行上沖縄住民に対する軍政府の期待、本会の為すべき事柄等説明するために本諮詢会を石川に招集したのである。
二、米軍政府の方針は沖縄住民が普通平時の職業及び生活様式に復旧し、自己の問題に就き漸次現在以上の権利を得べき社会、政治、経済組織を可及的迅速且広範囲にわたり設立することをその主眼とする。今日までは軍事上の必要並に戦争のもたらした非常事態のために本島民事は殆んど完全に米軍政府当局に於て取扱わなければならなかった。而して諸問題処理に就ては沖縄の住民は貴重なる援助を与えて呉れた、彼等は忠実に能く軍政府当局と協力した。今や従前以上の責任と広範囲にわたる義務を委任し得べき時期が到来した様に思われる。本官は住民に於て此の大なる責任を負担する決意と能力がある事を期待して居るのである。沖縄の住民が漸次生活の向上と自己の問題に対する自由の回復を期待し得る安定した制度の設立は諸君が新に委任された任務を能く遂行する事に係っている。米軍政府は引続き指導と物質的援助を与える。然し責任と管理は漸次沖縄の住民に委譲されなければならない。
三、戦争遂行上の必要は本島の面積の大部分を農産面より撤去し、少なくとも戦時中は多数の住民を従来人口の希薄にして住民を収容するには狭隘にして、肥沃ならず、且つ充分なる居住施設なき区域に移転することを余儀なくした。この事態に関連して起こる問題こそ軍政府及び住民の今後直面する問題の主要なるものである。
四、仮沖縄人諮詢会の諸君は、沖縄の政治、経済、福祉に通暁せる沖縄人として慎重に選定されたのである。諸君のうち一部は曽て責任ある地位にあり、又一部は現在各々の区域の組織管理及び福祉増進のため活動し重要な任務を負担している。諸君を招集した特別の目的は本官に於て沖縄人諮詢委員を選定するの必要上、人を推薦してもらうためである。右候補者は諸君の中より又は本会に出席し居らざる沖縄人にして委員候補者として考慮せらるべき者の中より詮衡しても差支がない。
五、軍政府に於ては諸君が直ちに会議を組織し本声明を審議し本日中に各々その区域に帰還することを予定している。而してこの声明を地方住民と共に討究し沖縄人諮詢委員会に何人が彼等を代表する事を望むか。その意見を徴せられたい。諸君は来る八月二十日石川に再会し同日諸君に於て沖縄人諮詢委員会員として最適任者たることに一致した十五名の沖縄人氏名を提出せられたい。本会は委員候補者推薦後、一応は停会し、今後本官の必要と認むる時に集会するものとす。
六、諸君の審議及び委員候補者詮衡に当りては人民に住居、被服、食糧及び医療を施すことが当面の主要問題であることを念頭に置かなければならない。この問題は今日までの主要問題であり、今後引続き緊要なる問題である。米軍政府当局は引続き建築材料、被服、補給食糧、医薬類物資等を提供する。然し住民が外部の援助より独立すべく可急的に計画に努力することを期待する。
七、尚軍政府の目的は戦争遂行上の制限範囲内において住民に関し左の事項を実行することにあることを諸君の審議の参考までに通告しておく。
イ、移住
 沖縄の全人口を臨時に左の九区に移転すること。
 各区域における人口は左記の如く予想す。
  前原区域 三万   石川区域 二万五千
  漢那区域 三万   宜野座区域 四万
  古知屋区域 三万  久志区域 三万五千
  瀬嵩区域 五万   喜如嘉区域 四万
  辺土名区域 四万
ロ、住居
 各区域に最初は仮住居を、新しき材料入手及び労力の組織が出来るに従って漸次充分なる住居を設置すること。
ハ、公衆衛生及医療
  (1) 住民の健康保護のため公衆衛生及び健康保護手続きを講じ人道上必要なる医療を沖縄人に施すこと。戦争で余儀なくされた密集生活状態は充分なる予防手段を講じ、そして厳密なるにあらざれば疾病を伝播するおそれあるを以ってこの事業は最も緊要なるものである。
  沖縄人諮詢委員会が住民の健康保護の必要及び方法について充分なる認識を与うるため委員候補者中には最も権威ある沖縄人医学者を含むことを望む。
  (2) 有能なる沖縄人を以て軍政府医務員と漸次交替することを奨励すること。このために軍政府病院に於ては看護婦養成の科目を設ける。
  (3) 住民用飲料水が衛生上適当であることを保護し汚物(糞尿、塵芥、蔬菜類の廃棄物)の衛生的処分を保障すること。
  (4) 癩病院を再建し、隔離及び治療に必要なる他の医療設備を設けること。
ニ、食糧
 沖縄人の最少限度の必要を充たすために地方産物を補足するに必要なる食糧その他基本的物品を輸入すること。
ホ、労働
  (1) 沖縄人社会再建のために有要なる職業を最大限度に興すことを援助すること。なお住民の便利のため輸入され、又今後輸入される大量の食糧及び材料の一部弁償の方法として沖縄人に非民間作業に従事する機会を与えること。
  (2) 住民の総てが部落に必要なる労力の割前を提供し部落その他に使用さるる住民すべてが適当なる報酬と適切なる取扱を受けることを保障すること。
  (3) 沖縄古来の特殊技能を継続することを奨励し、沖縄の新生活状態に相応しき新技能を啓発すること。
ヘ、経済
  (1) 沖縄人の必要を充たし、且つ将来沖縄人の収入を補足する物品、生産業の組織を奨励促進すること。
  (2) 軍事上の制限の許す範囲内に於て近海に於ける民間の漁業を復興すること。而して地方に現存せる機具ならびにその補足として輸入する機具の使用を以て出来得る範囲内に事業の最大限度の拡張を行うこと。
  (3) 地方材料及び機具を以て必要なる場合は軍政府に於て補足したるものを以て造船及び網製造業を興すこと。
  (4) 住民の食糧生産、特に新鮮なる野菜の如く本島に輸入不可能なる産物及び甘蔗、大豆の如く米国に生産せざる産物を可及的に援助すること。地方肥料の使用の継続を奨励すること。飼料の得られる範囲内に於て家畜の生産を維持し、中央屠殺場に於て監督下に家畜を屠殺する施設を設けること。
  (5) 各個人の社会福祉に対する貢献と生活上最低限度の必要に準拠して最も公平なる配分制度の組織を援助すること。物品は充分ならざる故斯かる配分制度に配給が伴う。
  (6) 大体に於て地方の生産及び配分制度の創設及び経営につき沖縄人に最大限度の責任を負荷すること。
ト、法律及び政治
  (1) 住民の政治機関を設けること。
  (2) 住民相互間の関係を律する法規条例を設けること。
  (3) 司法区域を設けること。
  (4) 民間法廷制度を設けること。
チ、教育
  (1) 沖縄児童のため民間教師を使用するよう小学校制度を設けること。教材の不足のため軍政府及び沖縄教育家に於ては周到なる計画を要す。
  (2) 後日高等の教育、特に職業及び工芸教育制度を設けること。
リ、公益、福祉
  (1) 衣食住の標準を定め維持すること。
  (2) 必要なる家族及び児童に対する救済計画を興しそれを維持すること。
  (3) かゝる救済計画の創始及び実行の責任を有する民間委員に専門的援助を与えること。
八、沖縄人諮詢委員が本官に依り承認され就任すると同時に便利なる場所に適当なる事務所を設け左記の事項を処理するものとす。
 イ、沖縄の住民の政治機関に関する計画を可及的迅速に本官に提出すること。
 ロ、本官の常設諮詢機関たること。
 ハ、本官より計画を受け、それを研究答申すること。
 ニ、住民の政治経済福祉に関する問題につき具申をなすこと。
九、此の声明は住民に軍政府の当面の意向を知らせるため各住民区域に掲示するものとす。
 一九四五年八月十五日
    軍政府副司令官
      米国マリン軍大佐
         C・I・ムーレー
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