戦後初期会議録

組織名
八重山群島議会
開催日
1952年02月21日 
(昭和27年)
会議名
第8回八重山群島議会(定例会)[4]
議事録
 一九五二年二月二十一日開議
日程第四号
  午前九時二十分開議
閉会後真栄里山の開拓工事、開田状況視察

◎議長(潮平寛保君) 開会いたします。(午前九時二十分)一番議員が欠席でありますが過半数御出席ですから開会いたします。本議会は各位の御熱心な御審議によりまして予定通り終えることができまして感謝申し上げます。本日は閉会後真栄里山の開拓工事、開田の状況を視察することにいたします。
 これを以て今期の議会は閉会いたします。
  (午前九時二十二分閉会)

本日の出席者次の通り
議 員
 議会議長(三番議員)
        潮平 寛保君
  〃副議長(六番議員)
        大山 眞整君
  〃議 員(四番)
        佐久眞長助君
  〃議 員(五番)
        古見 石人君
  〃議 員(七番)
        久部良正三君
参与(副知事) 當銘 正友君
  (閉会後真栄里山開拓工事、開田状況視察後、議会より提出する陳情書に各議員の捺印を了す。陳情書文は次の通り。)
  陳 情 書
       八重山群島議会
群島政府が琉球政府へ統合され、引継がれるに当り、八重山群島の持つ特異性に基く左記事項が琉球政治に反映し、これが実現あらんことを期待し陳情する。
一 地方庁の機構組織について
 群島政府が琉球政府へ統合され、当群島に設置せられる地方庁の機構組織に関し、左の通り要望する。
 本群島は琉球の政治、経済、文化の中心、沖縄本島を遠ざかり、交通不便の上に、しかも数多の島嶼が散在して、行政運営上不便甚だしく隨って中央との連絡事務等も遅延を免かれず、ために本群島地区住民の蒙る不利不便も大であるに鑑み、琉球政府に於いては中央集権的の弊に陥ることなく、特に当群島の特異性を考慮され、地方自治の精神を基調とする地方庁が組織され、之に対し大幅の行政権を与え、委任事務の範囲を拡大する考慮を払われたい。
 隨って現群島政府の有する機能が大幅に存置せられ、その組織機構が著しく縮減のないよう措置あらんことを望む。
二 与那国登記所設置について
 与那国町は登記事務を取扱っている八重山群島政府法務部登記所々在地と遠隔の距離にあるため、一般町民の登記手続は幾多の不便と余計な経費を負担せねばならぬ実情に鑑み、与那国町に属する登記事務を取扱うよう登記所設置方について同町議会より実情を訴へ陳情があり、当群島政府としても考慮計画中の処その実現を見るに至らずして今日になっています。
 群島政府が廃止され、琉球政府へ移管されるに至り、右御配慮の上与那国町民の利便と幸福のため、与那国登記所の設置実現あらんことを要望する。
三 出港認可港の追加指定方について
 一九五〇年一月二十七日付琉球軍政長官府布令第二号海運規定第四条第二項により、八重山における出港認可港は石垣、仲良、船浮の三港に限られておる為、産業経済面において不利不便を来している現状であるので、右三港以外に更に次の五港を新に加えられるよう陳情する。
    記
  石垣島………川平、伊原間
  西表島………浦内
  与那国島……波多、久部良
 追って不利不便を来している理由を次に列挙し、実情御賢察下さるようお願いする。
 1 川平……群島外船舶は川平よりの林産物を搭載する為、先ず石垣港に入港し、石垣地区警察署長の許可を得て川平に行き同地より林産物を搭載、再び石垣に帰り、改めて石垣地区警察署長より出港証明(パスポート)の交付を受けて出港出来る現状であり、そのため航行里程二五浬約五時間の不利を来している。
 船の入出港に際しては石垣、川平両港とも好潮時でなければ航行出来ない関係で潮時を失し、更に次の好潮時を待つため、一泊の已むなきに至る場合も屡あり、之に要する船舶運営費の過重はひいては、産業経済上影響を及ぼすこと甚大である。
 2 伊原間……1と同航程をとるが石垣よりの航行里程約四四浬、九時間の浪費を来している。
 3 浦内……地下資源の産出は全琉において八重山より勝る所はなく、その産出場たる浦内は現在石炭積出場の整備もなり、琉球海運会社の船舶は常に同地よりの石炭を搭載しなければいけない現状にあるが、これらの船舶が浦内が指定港でない為、仲良港に入港し、仲良警察派出所の許可を得て浦内で石炭を積載し、更に仲良港に引返し、同地でパスポートを貰い受け出港しなければならないのである。
 その間における仲良浦内間の航行里程約二五浬五時間の浪費と船舶運営費の浪費と、時にはその為に一泊の余儀ない場合もある。
 4 波多、久部良……与那国船舶はこの二港より漁獲物を積載し沖縄へ搬出するのであるが、同港は認可港でない為、外に用務がない場合でも石垣港へ寄港しパスポートの交付を受け、沖縄へ赴かねばならない現状である。これ等船舶が与那国でパスポートの交付を受けられるならば目的地たる糸満までの直航が出来、航行里程の上からも波多四五浬、久部良五〇浬の短縮は勿論、石垣港碇泊に要する船舶運営費の節減に著しく影響するのである。
四 マラリア撲滅について
 八重山群島の風土病マラリアの撲滅を期することは八重山資源開発の前提条件となっている。
 群島政府は豊かならざる財政にも不拘問題の重要性に鑑み、最大限の経費を支出し、事業を遂行しつつあり、本撲滅事業は今後更に拡張せねばならない必要に迫られているので、中央政府におかれては八重山の資源開発に必要なる本マラリア撲滅事業計画を支持せられ、将来事業拡張に必要なる措置を考慮せられたい。
五 経済関係
 (一) 農水産業基本施設の設置助成について
 本群島の農水産業は何ら見るべき基本施設がなく極めて幼稚な原始的段階にある。従ってこれら産業の近代化のためには多額の資本を要する。然るに農水産業者の資本蓄積力は殆ど皆無の状態にあるので、国家資金の援助によって次の施設が実現されるよう要望する。
  1 灌漑・排水ダム施設
  2 耕地改良
  3 共同製糖場
  4 共同作業場
  5 共同養蚕室
  6 共同乾繭場
  7 農地防風林
  8 優良種苗の導入
  9 牧野の改良(牧野改善、薬浴場設置等)
 10 種畜場の設置
 11 漁船建設及漁具の購入
 12 遠洋漁業施設
 13 漁港施設
 14 魚類冷凍冷蔵施設
 15 農水産業倉庫
 (二) 八重山開発事業の実現
 八重山における未開発資源の開拓は琉球経済の自立度を高め、人口問題の解決をはかる重大なる使命をもつものと信ずる。
 八重山開発事業を琉球の重要国策にとりあげ急速な実現をはかられたい。
 本群島の開発予定面積は六、〇〇〇町歩と予想され、群島内移住民一、一〇〇戸、群島外移住民三、〇〇〇戸を移植し、適性規模をもつ農家を設定することができる。これが実施に要する移植民への融資及び道路、学校、衛生施設等を中央政府によって実施されるよう要望する。
 (三) 外資導入及び技術の導入について
 本群島は各種企業の勃興に適する諸条件を具備しているにもかかわらず、資本及び技術の貧困により、その実施に不可能の状況にある。従って日本資本及び技術の導入を希望するものであるが、外国資本導入に当っては群島内資本及び琉球内資本の合資による企業化が望ましい。
 (四) 協同組合の強化援助について
 協同組合法の公布によって農漁業協同組合は法の保護の下にその成果を挙げつつあるが、琉球産業の現況から農漁業の生産力を高め、農漁村の民主化を実現するために、協同組合の果すべき役割は大きく、政府の物心両面よりする援助により農漁業協同組合が強化充実するよう要望する。
 尚、畜産、養蚕、牧野、林業等の特殊組合を、その地域の特殊性に応じ、指導奨励に努められるよう望む。
 (五) 農産物価格の安定策樹立について
 零細農家を主体とする本群島農家の経済は、農産物価格の不安定により生活の安定度を維持することは困難な段階にある。
 八重山群島政府が一九五一年実施した籾買入れ政策は一期作米出盛り期の籾価格暴落を防止して、農家収入の安定と生産意欲を高めたのみならず、端境期の米価の暴騰を防止し得て、本群島住民生活の安定に寄与するところ大であった。
 この籾買入政策を中央政府によって継続実施されると共に、輸移出農産物価格の維持についても法の保護により実施されるよう要望する。
 (六) 八重山農業研究指導所の移転及び内容充実について
 八重山農業研究指導所は琉球地区における亜熱帯作物の試験及び研究に好適し、且つ又琉球の宝庫たる八重山資源開発に必要な調査研究をする使命を持つにもかかわらず、現位置は部落を離れること遠く職員の勤務に不便であり、且つ農民との直接な接触を保持する上に困難な条件下にあるので、本所は石垣市近郊に移転し、各種試験施設の充実を図られたい。特に亜熱帯農産物の研究、放牧試験施設の充実完備により、本指導所を特色づけ、琉球農業改革の先駆たらしめるよう要望する。
 (七) 農業災害防除対策の確立について
 本群島農業は作物病虫害、家畜伝染病、猪害、鳥害等により、毎年多額の被害を蒙り、これの防除は生産者の負担による糊塗的手段を以ては到底その成果を挙げ得ない。
 次の各事項に対する政策を確立し、助成の方途を講ぜられるように要望する。
 1 作物病虫害駆除策(特に本群島の瓜蝿、さつまいもめいが)
 2 家畜伝染病防遏方策及び殺処分補償費の政府負担
 3 猪害防除策
 (八) 農業改良事業の強化について
 本群島における農業生産力を高めるには、農業改良に対する政府の指導に俟つべきものが多い。よって農業技術の普及並びに農業改良の各種施設が政府によって実施されるよう要望する。
 尚現在設置されている農業改良普及員、生活改善普及員の充実強化をはかり、畜産、養蚕の町村駐在技術員を設置するとともにこれら技術員養成機関の設置を望む。
 (九) 大日本製糖会社々有地及び国有林地について
 本群島には大日本製糖会社々有地が七九二町歩存在し、その大部分は耕地として利用され、西表島には広大な国有林地があってその一部は耕地として利用されている。これらの所有にかかる耕地を現耕作者に払下げ自作農が創設されるような措置を要望する。
 (十) 漁業取締監視船の常置について
 沿岸漁場は終戦後、爆発物の不法使用による荒廃に帰しつつあるのでこれの取締りを強化し、沿岸漁場の保護を講ずることは緊急を要する問題である。よって、取締りに必要なる監視船及び専任職員の常置を要望する。
 (十一) 動植物検疫所の設置について
 動植物の輸移出入は逐年増加の傾向にあり、特に本群島は琉球南方の門戸に位置するので動植物病害虫検疫の要が極めて大きい。よって動植物検疫所の設置及び常置職員の任命を要望する。
 (十二) 蚕糸検定所の設置について
 蚕糸業の勃興に伴い、蚕糸の検定、蚕病の防除対策は必要欠くべからざるものである故に、蚕糸検定所を設置し、常置職員の任命を要望する。
 (十三) 物産検査所の設置について
 本群島における黒糖の検査は群島政府経済部職員が兼ねて実施しているので、その機能を十分発揮することは出来ない。よって物産検査所を設置し常置職員の任命を要望する。
 (十四) 水産製品検査所の設置について
 水産製品は終戦後その品質が低下し、規格も区々で日本市場における琉球産品の声価を落しつつある。よって水産製品検査所を設置し、輸出水産物の検査が地元において実施されるよう要望する。
 (十五) 水産研究所分場の設置について
 八重山群島の沿岸には未開発の水産資源が包蔵され利用研究の如何によっては琉球経済に寄与するものが大である。尚現在行われている漁法、加工業についても科学的研究によって改善すべき点が多大である。現在沖縄に水産研究所があり、大島に分場を持っているが、これらの土地における研究が全面的に本群島に適用されるものではないので、本群島に水産研究所分場が設置されるよう要望する。
六 工務関係
 一九五三年度復興工事の計画実施について
 八重山群島は昔から琉球の宝庫といわれ、幾多の資源があり、事実現今琉球の産業政策上人口政策上最も大きく期待され、且つ実施されつつある所である。今日まで、八重山開発の一大隘路は風土病マラリアであった。マラリアを撲滅し、八重山の資源を開発するためには人口の増加をはかることが最も必要である。
 八重山群島政府は港湾工事、道路工事、橋梁工事、学校建築工事、一般建築工事等を促進することにより、他群島より移民を受入れ、マラリアの徹底的撲滅を期すると共に、八重山を開発すべく一九五三年度も産業政策に相俟って、より有意義な復興工事を計画した。
 八重山を開発することにより全琉球に及ぼす経済的影響は大きく、且つ、琉球の人口問題は解決されるものと信ずる。故に八重山の資源の優位性に着目され、一九五三年度も引続き計画通りの工事を是非実現させていただきたい。
以上について八重山群島議会は満場一致の可決を以て連署陳情する。
 一九五二年二月二十日
八重山群島議会議長  潮平 寛保
  〃   副議長  大山 眞整
  〃   議 員  石垣 用中
  〃   議 員  佐久眞長助
  〃   議 員  古見 石人
  〃   議 員  久部良正三

八重山民政官府主席経由
琉球民政本部副長官 宛
臨時中央政府主席  宛

  陳 情 書
       八重山群島議会
  (前記陳情文の工務関係一九五三年度復興工事の計画実施についての内容、八重山群島は昔から琉球の宝庫といわれ……以下同文)
 同年月日 議員名 連署 同じ
 琉球民政本部財政部 宛
   〃   工務部 宛

 右会議の顛末を記載し、相違ないことを証するためここに署名する。
 一九五二年二月二十一日
八重山群島議会議長 潮平 寛保(印)
  〃   議 員 大山 眞整(印)
  〃   議 員 久部良正三(印)
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