戦後初期会議録

組織名
琉球臨時中央政府立法院
開催日
1951年07月17日 
(昭和26年)
会議名
立法院全員協議会 1951年7月17日[2]
議事録
立法院全員協議会会議録

 一九五一年七月十七日(火)午後二時七分開議

議 題
 一、文教局設置法案について

○仮議長(松田賀哲君) 文教局設置法についてでありますが、大濱委員から一つ…。
○文教仮局長(奥田愛正君) 私から一応御説明申上げます。文教局設置法案につきましては最初に文教局で立案したのでありますが、ちょうど設置法の翻訳をしまして出そうという直前に係官が見へまして、城間参議を中心に話合いまして、その後この案が余り細かい問題に触れているような傾向がありましたので、これを比嘉主席とお話しまして民政府に出しました案を修正して更に相談に参ったのであります。それによりまして民政府と私共の案が折衷された案が出来たのであります。更にこれを委員会に諮りまして字句の修正をし今のような案が出来た訳であります。
 臨時中央政府に文教局が設置されるということは各群島政府とも左程の期待を持っていないのであります。左程の重要性を切実に考もせず、又取上げてもいないのが現状であります。然しながらそういうような状況にも拘らず特に文教局の設置がいそがれますことは、教育の重要性に対する当局の非常な関心があるというようなことを感じておりまして、琉球教育としての重大課題の解決に迫られていると考へております。特に講和会議を前にしましてその岐路に立つ琉球教育につきましては全然新しい視野に立って将来の文化社会建設のためにどういう形をとったが一番いいかということを見究めて行かなければならないと思うのでありますが、何れにしても教育行政というのは中央、地方を問わず教育が伸々として正しく行われるように色々の条件を整え人的物的なお世話をすることであり、そして自分から教育を支配するというようなことでなしに、教育が不当な支配に服することがないように、教育の自由を守るのがその重大な使命だと考へているのであります。こういう建前から構想したのがこの文教局設置法案であります。即ち不当な支配、言い換へるならば政党や官僚や教員組合等が教育の本道に反したことを教育に強いることがないようにこれを排し、或は一定の型にはめ込んだ、その型通りの指導監督をするということを避けまして、教育の実施は将来設置を予想される住民の民意による教育委員会に委ねるべきだと考へるのであります。そして中央に於ては教育の普及徹底に必要な法規の立案と学校施設の規準、教員の資格認定或は科学的な資料を供給し地方の実情を十分把握し、又は内外の資料を十分用意して将来設置を予定される地方の教育行政の施策に対して適切な助言を与える、然し全体としての整然たる性格を貫通することも考へておりますが、主に助成的な役割を果す機関だと考へるのであります。現段階に於ては恒久的な中央政府樹立に至る迄に教育法規の立案或は教育行政、財政の調査研究事務が主体と思いますけれども、大体先申上げたような役割を果して行く機関であるという考の下にやっているのであります。
 以上が大体設置法を提案した理由であります。尚申上げておきますが、大学の方は御承知の通り布令第三十号によりまして、大学管理は大学理事会でやることになっておりますがこれは大学の自由その他の方面から至当であると考へております。尚群島政府との繋りもあるのでありますが、これは現段階に於ては教育資材或は教員の養成という方面、再教育の方面につきまして連絡があるが将来に於ては地方の自主性と中央の文教局の計画性を如何に調和させるかということが研究問題で、勿論教育財政の裏づけがありますれば、地方の教育行政機関に権利(権限カ)を移すということも十分可能であると思っております。
○與儀達敏君 教員養成なんかは中央でやりますね。教員の再教育、試験検定とか…。
○文教仮局長(奥田愛正君) 結局免許に関する基準が出来ますから、それに応じて施策は当然とらるべきだと思う。然しこういうのは大体大学に委ねらるべきものであります。
○城間盛善君 将来の全琉教育行政機構の教育運営の目標をお持ちですか。
○文教仮局長(奥田愛正君) 日本の教育の在り方も文部省というものがありますけれども、大体文部省が司法省、内務省と同様に解体される運命に達した訳であります。と申しますのは矢張り超国家主義的な機関であるという点であったのですが、そういうことで文部省の在り方をアメリカの教育使節団の報告書の勧告によって従来の学校教育省的なものでなしに教育、芸術、文化一切を含んだ一つの文化省若くは学芸省的なものを設置しようという方向に向っている。又一方では中央教育審議会という合議制の機関を設置して教育に関することを扱う二つの方法が出来て結局従来とは名前は同じでも性格の違った文部省として出発した。その性格の主なるものは大体指導助言を主体にして従来のような監督ということを非常に狭めるという行き方です。そういう文部省があって地方の新しく出来た教育委員会を指導助言して行くということであります。勿論この文部省には教育の内容であるとか、教育法規の制定改廃というのは残っておりすけれども、大体に於て指導助言という形をとっている。従って琉球に於ても矢張り日本につながる一環としての考へ方から中央政府には文教局があって法規の制定改廃などは勿論教育の内容などについて基準を設ける。更に各群島乃至はそれぞれ地域に教育委員会を設置して教育委員会によって教育の指導に当らせるという行き方でやった方がよくはないかと思うのであります。
○城間盛善君 将来の教育は全部教育委員会に扱わせる訳ですね。
 そうすると中央政府文教局の任務はそういった各地区の教育委員会の運営に対して技術的な助言援助を与へることにある訳ですね。
○文教仮局長(奥田愛正君) それが重大な役割だと思う。
○城間盛善君 そういう委員会の上部の、例へば中央委員会というものも考へられる訳ですね。
○文教仮局長(奥田愛正君) 中央委員会はなくてはならんと思う。教科の基準を設定する委員会とか…。
○城間盛善君 全琉文教局長会議で中央委員会を作るという話合をしたということを聞いたのですが…。
○文教仮局長(奥田愛正君) 今はありませんけれども当然各群島からの委員会というものはあって然るべきだと思う。
○大濱國浩君 教育審議会を設ける必要がありますか。
○文教仮局長(奥田愛正君) 日本にありますように政府に直属する様な--文教局の諮問機関ということでなしに--教育審議会はあって然るべきだと思う。
○城間盛善君 今はないと思いますが将来全琉的な一つの特殊の学校をつくる場合にはその管理は文教局が当る訳ですか。
○文教仮局長(奥田愛正君) 大学の印刷局、放送局、インフォーメイション・センター、工業試験場、大学の校外活動というようなものを将来大学が持つということが理想ではありますが、大学のみで出来んような場合もありますので、その施設或は管理ということを考へますし、更に第七条の特殊教育に関する調査研究というのがありますが、最近首里市に盲唖学校が設立されることになっておりますが、これは単に沖縄だけでやるべきものでなしに若し四群島とも可能である場合はこの盲唖学校に一緒になることが出来るように中央政府も考へて行かなければならないと思うのであります。
○仮議長(松田賀哲君) 将来は群島の文教局をなくするとこういう建前で来ている訳なんですね。ところが、今財政の裏づけがないから現在出来ない。そうなると現在はどんなことをやるのですか。
○文教仮局長(奥田愛正君) 現段階では結局教育の調査研究することは勿論のことですが、教育法規を立案してこれを整備するという行き方だと思うのです。
○仮議長(松田賀哲君) 逐条審議に移ります。
  (第一条)
○文教仮局長(奥田愛正君) 「一行政機構として」という言葉を入れたのは、民政府布告第三号に琉球臨時中央政府は立法院と執行権を行うところの中央政府、それから司法権の三つを含めたものであるということになっているので文教局としてはその一行政機構の中に設置するということをはっきりした訳です。普通政府という場合には政治的な定義、法律的な定義がありそうなんですが、普通には執行権が主体として考へられるのですが、布告の第三号を見ると三権を含めたものとしての政府を定義している。それで今度設置される文教局がどの側に属するかを明かにするために「一行政機構として」という言葉を附加へたものであります。
  (第二条第一項)
○文教仮局長(奥田愛正君) 民主教育の内容と申しますと、制度組織或は学習の機会を与へる、学習の課程、学習指導というものが含まれております。制度の上からは六・三制、或は学校の門戸解放、それに生徒の能力に応ずる教育の組織の均等化などというのが考へられると思う。更に学習の能力に応ずる、学習の機会というものに応ずる学科課程の編成、若くは学習指導の方法などというものが民主教育の体系を確立するための直接の最低の基準として考へられる。そういう方面に関する法令の作成、更に教育の普及に必要な法令を作るこういうような意味を持っております。
  (同第二項)
 これは先程申上げた様に将来設置を予想される地方の教育行政機関に対して専門的な指導と助言を与へるという意味であります。
  (同第三項)
 教育のための物資の確保について援助する。これも文教局として当然大事な仕事だと思います。これは中央政府には予算がないので出来ないぢゃないかといいますと、選択についての援助を与へるのだと民政府は申しております。
  (同第四項)
 これは先程申上げた通りであります。
  (同第五項)
 一項から四項迄の外で将来重要な美術品であるとか或はそういうものに関する法令が出来ました場合のために設けた項であります。
○嘉陽安春君 教育に関する機関というのは、今は設置されないけれども、はっきりと群島の教育委員会と考へてよいか。
○文教仮局長(奥田愛正君) 細かくすれば学校にも及ぶと思う。
○嘉陽安春君 三項は誰を援助するか、これも群島と考へていいのですか。
○文教仮局長(奥田愛正君) 対象は矢張り教育委員会ですね。或は大学、研究機関もそうだろうと思う。
○嘉陽安春君 一項は最低基準に必要な法令の作成案という風にかかりますね別に最低基準の作成にかかるのぢゃないでせうね。
○文教仮局長(奥田愛正君) はい。
○城間盛善君 今のところ最低基準というのは法令にはない訳ですか。
○文教仮局長(奥田愛正君) それはありますよ。例へば六・三制の場合、義務教育なんていうのもそうです。
○與儀達敏君 援助というのはどの程度のものですか。
○文教仮局長(奥田愛正君) 結局世話をするという程度でせう。
  (第三条)
○文教仮局長(奥田愛正君) 予算と睨み合せなければなりませんので必要な職員を置くといった方がよくはないかと思っております。
○仮議長(松田賀哲君) 軍から指令された予算には人員のことなんか書いてありませんか。
○文教仮局長(奥田愛正君) 書いてありません。こっちから二十五名と出そうとしたのですが…。
  (第四条)
 これも前の財政局と郵便局にならっております。
  (第五条)
 行政事務を執る庶務課と主に学校教育を掌る学校教育課と社会教育に関することを掌る社会教育課に分けた訳です。
  (第六条)
 これは財政局など細かく規定してあるようでしたがそれを大まかに規定して細かい点は第九条に謳ってありますように、別に規定する考です。
○仮議長(松田賀哲君) 人事とか機密事項は、六その他他課に属しないこと、に入るという御説明ですね。
○文教仮局長(奥田愛正君) 第六条の二「行政体系」は「行政組織」がよいと思うので左様訂正します。
  (第七条)
 これは一番学校教育課が仕事が多いようで学校教育に関する法令案と申しますのは、大体学校教育法、施行規則或は学校設置基準、初等学校、中等学校、高等学校などの設置基準、こういうのが主たる仕事となっております。
 第二の特殊教育に関する調査研究、これは先程申上げたように不具者のための学校設置に必要な調査研究、特に義務教育の機会均等というものがどの程度になされているかということの調査研究であります。
 それから第三の教育課程編成その他学校の基準に関することでありますが、教科課程というのは大体日本に於ては学習指導要領一般篇教科篇という風に定められておりまして、これはただ基準であって、地方の教育委員会や或は学校のそれぞれの地域社会の実態に即する様に課程が編成されなければならんという建前であります。これには学習指導の方法も含まれますし、或は教科の問題も含まれると思います。教育課程というと教育の程度或は教科の程度、こういう風に解釈していいだろうと思いますが、教育の機会均等化ということの要求は学科課程、教科課程、学習指導の中心問題であると思うのです。従来教科教材というものが先ず引出されるしこれを理解させ記憶させるというのが、従来の教育の中心問題だったが、結局理解記憶の能力が中心に置かれまして理解、記憶を尺度として児童の能力が判断されるということが従来のやり方であった。正しく理解し記憶することの秀れた子供が能力が秀れており、それの低い子供は能力が低いという風に見られまして結局教育的な価値判断の尺度は本質的には教科教材に置かれて、子供の現在持っている能力というものは殆ど考へていなかったのが従来の行き方であって結局一般的な能力を考へていたのであります。然し新しい教育学習の指導に於ては子供の持っている能力そのものを対象としてそれを手掛りに学習指導をして行くということになるのであります。結局子供の活動と能力がある、これらの活動と能力によって必要な学習の機会が与へられる。それが学習指導の対象となる。そこに学習素材があげられてその一つが結局教科課程であり、それの編成というものは並大抵の仕事ではないのであります。こういう様な方面の編成或は学校の基準の作成、こういうことが結局教科課程の編成、学校基準の作成と考へられるのであります。次に教育職員の養成課程の基準、これは日本に於ては教育職員免許法というのが出来ております。そして教育職員の資格の最低基準を決めた教育職員免許法、この法律を基準として従来の規定による資格を新しい免許に切替へるために、教育職員免許法、施行法というものが出来、この法律を施行するに必要な規定として教育職員免許法、施行法、施行規則というのが出来ております。教育職員の免許基準に関することでありますが、これには矢張り種別--小学校、中学校、高等学校、農学校等--身分では教諭、助教諭、職種別では教員、校長、指導主事、教育長、学科別では社会、国語などと中学、高等学校に通ずる免許もある。それに一級、二級、仮、臨時とあり、例へば幼稚園、小学校、中学校は大学卒業生が一級免許、二年以上の力があるものは二級、一年以上学んだものが、仮こういう風に分けられております。
  (第八条)
 社会教育課は一般社会の教育でありまして、それには法令を以て社会教育の向う方向を示すことであり、第二は社会教育施設全般に関すること。
○仮議長(松田賀哲君) 社会教育の中には青年会、婦人会というものがありますが、あれも入りますか。又それとの関係は…。
○文教仮局長(奥田愛正君) 社会教育に入ります。それとの関係は教育委員会に社会教育が設置されますから、それによって指導助言を加へられると思います。
  (第九条)
 大まかでありますので、別に細目については規定しておく必要があると思います。
  (午後四時終了)

協議会出席者
   仮議長  松田 賀哲君
   参 議  與儀 達敏君
    〃   城間 盛善君
    〃   大濱 國浩君
    〃   吉元 榮光君
    〃   嘉陽 安春君
    〃   田畑 守雄君
   文教局仮局長(ママ)
        奥田 愛正君
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