戦後初期会議録

組織名
宮古議会
開催日
1947年07月11日 
(昭和22年)
会議名
第5回宮古議会[3]
議事録
  一九四七年七月十一日
◎議長(與儀達敏) 開会宣告(午後五時二十分)
○議長(與儀達敏) 議員の出欠報告を致します、出席二十名、欠席一名であります
◎議長(與儀達敏) 第十八号議案一九四七年度宮古民政府歳入歳出追加更正予算議定の件の審議を続行することに致します
◎十九番(砂川惠一) 連日に亙り研究会場に於て本追加予算案について慎重研究の結果之が執行に就て憂ふるものである、即ち財政状況につき検討したる場合去年四月宮古郡の通貨切替の際は一千五百万円であったが本郡の昨年五月から本年度の六月迄の米軍物資購入費が実に一千万円を突破している、而も今回の追加予算には実に一千百五十三万円が計上されている、之は本郡の懐具合と本追加予算それから米軍物資売払代とを合はせまして宮古の将来を考へた場合全く寒心に堪へない、而も郡予算は殆んどが配給物資代に依存されているやうな状態であります、右の様な事からこの配給物資代の引下げに対しては知事に於かれては考慮が願ひ度い
 それから職員の待遇改善には自分は余り賛意を表しないものであります、天井知らずの待遇と云ふと一体之を誰が賄ふか本員は産業の充実、経済の確定(立カ)を痛感するものであります、三分の二の物資配給代金を財源にしていられますが知事に於かれては検討されて今回の待遇改善の財源の裏面に低物価政策の施策を考慮して戴き度い
 次は集団農場の件でありますが、終戦当時本郡の食糧事情は真に窮迫を告げ久米島或ひは八重山尚又軍政府といふ風に之が解決に腐心しておりましたが斯うした状態を何とかしなければならないと民政府に於かれては雄大な構想の御計画を致され集団農場を経営されましたが之が成功、不成功は直ちに郡民の死活問題に大きな影響を齎らすものと考へます、然るに先般虫害発生を見之が被害に対処して各学校、町内会、部落会を動員し害虫駆除を実施したる結果、被害が少なくして済んだのでありますが如何して之が未然防止の方法がなかったかが随分現下の社会問題として取り上げられたが、種々調査の結果大して被害がなかったことは不幸中の幸だったと思ふ
 本郡の経済界に大きな影響を齎らすものは如何しても主食たる芋でありますが、此芋の代金を十円代で出廻るやうに特段の御努力を要望致します
 次は当民政府が大きな施策とされている移民問題でありますが、本郡の人口は六万で一人当一町二歩の面積でありましたが終戦後各方面から約之が三分の一の人が来て現在の面積は一人当八町(ママ)そこそこで而も終戦前は毎月台湾から米が入り尚且産業は益々発展して何不自由なものはなかったが戦争に依って之が根本から破壊されて了った、それで今のこの移民の問題を実現しないと所謂楽土建設は至難といっても過言ではないのであります、軍政府の資材を仰いで此問題を早急に解決して貰ひ度い、知事も関係部長も早急に之が調査を急いで一日も早くこの問題を実現して貰ひ度い
 次は優秀官吏の表彰の問題でありますが民政府の経理部のやっている仕事が軍政府の調査の結果保管方法が断然南西諸島第一だ、八重山迄係員を派遣して指導するやうにとのことで係員は之が指導で参っております、所が表彰規程を見ますと三年以上の者を表彰するやうになっておりますが今のこの規程に依らず表彰して貰ひ度い、官吏粛正上からも是非必要な事と思ひます、この点一入御願します、それから官吏の綱紀粛正の点でありますがどうしても官僚主義を排除して民主主義に改善して貰ひ度い
 大要以上のやうな質問に対し
○知事 今の砂川さんの質問に御答します、自分も本郡の経済状態に対しては日頃関心を持っている、自分は経済面の知識がない為に低物価政策を断行する専門家が欲しいと思って目下物色中であります、庁員や皆さんの智慧を借りて最善の努力をし度い
 産業方面でありますが家畜農産物、鰹代として一四八万円も入る予定ですから余り悲観する事もない、将来今の状態で行けば益々太る一方で之はどうしてもこの道の専門家の人材が必要で層一層善処し度いと思っている次は物価の引下げについて
 現在は自由経済でありますが今配給物資を引下げて貰ひ度いと云ふかも知れないので、この点は余程慎重に考へねばならぬ問題だと思ひます、若し軍政府に対し引下げを申請した場合に統制経済をしてと云ふかも知れないのでその点が心配です
 低物価政策について
 幾ら物価が高騰しても物には限度といふものがありますが今の御意見には賛成致します、やたらに物価を下げたら物が隠れて折角の政策も徒労に終る虞れがありますから余程慎重を期せなければならない、物が高い、高くないといふ事丈でなく増産面にうんと努力して物をどしどし作って低物価と云ふことを根本対策とし度い
 集団農場について
 褒めて貰って恐縮しています、技術員の方では若千虫が出て大したことはないと思ひましたが芒種の雨でなくなる見当ののが急に発生したやうなわけで、人手の及ばない点もあって大発生を見たが全く申訳ない、再びと将来このやうな事がない様に注意致します
 移民問題について
 全面的に賛成であります、一〇戸、二〇戸と云ふやうに小移民をすると、何と云ふてもマラリア予防対策を軍政府でやって呉れない限り民政府としては出来ない、移民問題については両先島は共同戦線を張って体当りしようと協議済みであります、マクラム中佐も行くので是非実現に努力するやうに御願致します、経理部の部長以下一生懸命に努力をして見事な成績をあげて軍政府の信頼を得て感謝している、表彰規程に依って表彰し度い、三ヶ年云々の記憶はない、年限に拘束(泥カ)しないで表彰し度いと思っている、尚一般郡民としても表彰に価する者は表彰します
 官吏粛正についてのご意見に賛成します、この際愛するが故に信賞必罰を判然とし度い
 議会議員の方々に御願したいのは余りに窮屈な考はしないで貰ひ度い、郡の建設と云ふ立場から自分は仕事をやっているのでありまして、決して職権濫用と云ふ考は毛頭ない
 それから郡(部カ)下の指導に当っては自分は愛を行っています、反省を求めても反省しない又郡の建設に対して適当でないものは涙を呑んで辞る(ママ)と云ふやうな仕事をやって来たので人事には御期待に添ふやうにし度い、即ち郡民の公僕としてやって行き度い、郡民を離れては役所はないのでありまして共に相率いてやって行き度い
◎九番(亀川惠信) 先づ文化部設置について、古来未曾有の厖大な追加予算を一瞥して宮古郡財政の膨大さに一驚を喫しますが、これ程の追加予算の内容にも不拘文化向上への施設が盛られてない事は甚だ遺憾な事と存じます、具志堅知事の常にモットーと致します宮古楽土建設は宮古の文化向上なくしては如何に産業経済が復興しても期待し難いのであって私が文化運動の必要性を強調する所以も此処にあるのであります、即ち宮古文化運動の急速にして活溌なる展開の必要を痛感致します、而らば現在宮古にある文化運動の実情はと申せば芸能協会、文芸協会、キリスト協会(宗教運動)、英語塾、オリオン研究所等ありますが、此等は単に民間の指導階級によって計画されていますが決して満足なる効果は収めてないので更に民政府として強力なる文化運動を推進して欲しいのであります、現在の文教部の機構では其の人的機構及び予算等の関係で活溌なる文化運動の指導は困難であります、沖縄本島では文化部があって部厚い文化シリーズを発行して思想の善導に努め生活改善、趣味の向上等に努めているし、宮古よりも財政的に遙かに劣っている八重山でさへも文化部が設立され印刷部を設置して文化運動を促進しているし八重山文化あり、子供新聞あり、芸能協会等があって文化運動を助成しつつあります、かく述べますれば自ら文化部設置の必要を痛感なされると思はれますが沖縄文化部長の講演の如く沖縄本島では既に沖縄文化建設の目標を明瞭に認識して道義、良心の復興、科学知識の普及、能率増進、民主沖縄の実現等確実なる歩みを続けているのに、只宮古丈が文化建設に関心を余り示さないのは甚だ遺憾の事と思ふ、人口八万に垂んとしているのに宮古の新聞社の発行部数が僅かに千部を越すに足らんとは宮古人の文化意識の低劣さを示すものであって為政者は反省すべきだと思ふ、文化部でなくても暫定的文教部を拡充して教育行政面と文化行政面の二課制にして、二課長を置いたら良いと思ふ、さうして言論、芸術、宗教等の社会教育、文化施設の行政をなす必要がある、其為には文化助成費としての予算を充分とって活溌に活動しなければ宮古楽土建設は夢であり、片輪(端カ)であると思ふのであります
 次は教員の待遇について、総務部長は予算説明の際に去る一月の増俸に洩れた学校職員の増俸は埋め合はせて地均してあるとの話だったので総務部長の誠意を認めて非常に悦んで居ります、当局から戴いた俸給表を詳細に検討して見ますと高等学校、初等学校教官以下は総務部長の明言の如く立派に地均してありますが教頭以上は非常に開きがある事に義憤を感ずるものであります、例へば数字的に申上げれば部長は五八〇円より一躍一七〇円即ち二割九分の増額であります、高校は五六七円から一二〇円増俸することになったので二割一分の増俸であります、初等学校の校長は課長級が一月四七円の増俸となっておりますので今度の増俸が一人一〇〇円平均の増俸の建前から取り残された四七円併せて為すことになって居りますが、現在の初等学校校長の俸給平均四六七円は当然ならば四七円増俸して一月から五一四円支給されてなければならない筈です
 それで実際の増俸率は今回の増俸一〇〇円を五一四円で割った〇、一九の増俸率になって居ります、然し乍ら当局の示した表には三割一分となって居りますが其根本の誤謬は何処にあるかと申せば四七円の増俸は今なさるるべきものだと見なして一斉増俸の一〇〇円と加へて増俸率を換算した点でありまして子供だましのものであります、勿論校長と民政府職員との比較対照しない時はそれでもいいのですが、重点は要するに教員が民政府の役人に比較して同率であるかどうかを検討するのにありまして、私はこの点を強調するのでありまして俸給の不均衡を地均すべき絶好のチャンスで一月に増俸すべき額四七円より遙かに七〇円の差額をつけたと云ふ大失態であります、殊に今度の増俸に対してはマ司令部より教員は特に待遇について考慮せよとの指令が来て居ると言はれ巷間の伝ふる処によれば、軍政府に於ても教員は優遇せよとの話がありますので此増俸の不均衡は由々しき重大問題だと考へられます、此好チャンスを逸しては生活に喘ぐ教員諸君の待遇を改善すべき機会があるでありませうか、一体生活の安定なくしては真の教育は出来ません、戦後教育者の生活は見るに忍びないものがあります、今にして教育者の生活の安定を計らなければ吾が郡民の発展は期せられないと思ひます、総務部長は部長の俸給を特に優遇してあるのは部を預かって責任が重いからだと云ふ話でしたが仰せの通部長の責任の重大さは私も認めます、全面的に官吏の増俸も大賛成であります、然し乍ら学校職員の責任の重大さに於て部長に劣って居るであらうか、学校を預り一〇-三〇名の部下を擁し数百名-二千名近くの児童を預かる大世帯でありまして然も魂の世界を預って居る古来神聖視されている教育者であります、一部長の不見識と不信に依って左右さるるべき簡単な問題ではありません
 今や教育者も新しき教育理念に則って私共の愛し児を新時代に即応する様に教育しなければいけませぬ、日本の教育法は初等教育より大学教育迄誤謬に満ちています、児童は上から操られる傀儡ではなくて精神と欲望と関心とを持って常に成長しつつあるパーソナリティであります、此の新しい教育理念に依って教育しなければ実際の役に立つ人物は生れないのであります、今学校後援会聯合会も此見地から学校と呼吸を合せて教育発展の為に努力し度いと思っているのでありまして、私が今議会に於て教員優遇を徹頭徹尾主張し続けたのも茲にあるのでありますが、優遇と申しましても決して一般官吏より優遇されているのでありません、唯血の叫びとして私が絶叫して居るのは民政府の役人並に引上げて貰ひ度いとの一点に関っているのであります、何卒此の点特に御考慮の上善処して下さる様衷心から御願致します
 然して民政府の職員と同率に引上げるのは高校長が更に五〇円、初等校長が七〇円、高等初等学校の教頭が二五円宛の増俸せなければなりません、其金額は七月から増俸するものとして一七、一四五円を要するのでありますが一般官吏の増俸も六月から増俸するものとして予算に計上してありますので一ヶ月分の増俸額は浮いて来ますので財源としても何ら心配ありません
○知事 文化事業については緩急がある即ち今日は人の褌で仕事をやるといふ様な立場にある、都市計画、上下水道も欲しい、文化事業方面では社会課の中に文化部と云ふものを設置して文化、社会方面を担当してみっちりやって貰ふと思ふ、物心両面から来る楽土建設は郡民の和衷協力、一致団結して始めて成し得る事であり今の調子では見事に実現性があると自分は確信している
 大要以上の様な答弁があり
○議長(與儀達敏) 九番の御意見に賛成します、学校教員の待遇問題に対しては私も敬意を表します、増俸の算定方法や今回の増俸経緯を詳細に説明したる後今の御意見は充分尊重して御意志に添ひ度い、そして教育者の充分なる活動が出来るやうに明言します
 大要以上の答弁あり
○九番(亀川惠信) 感謝致します
◎二番(下地盛壽) 時間の都合上予算審議をして一般質問に入りたい動議を提出します
◎議長(與儀達敏) 只今時間の都合上予算審議をなし一般質問に入りたい動議がありましたが如何ですかと諮へば
  (異議なし異議なしと呼ぶ)
◎二十一番(玉城玄教) 実に厖大極まる本予算を審議するには相当の時間を要する、大体に於て本予算の如くべら棒な予算は今迄にその例を見ない、追加予算が既決予算の二倍以上にもなったと云ふことは或ひは事情の致す所ではありませうが、予算編成の建前からして多くその例がない、将来は充分御考察されて堅実なる予算の調製をして貰い度いことを希望する
 職員の待遇問題でありますが、今回の増俸でも全く気の毒である、今度の増俸は既に決定しておりますが之では尚生活を充たす為には充分と云へない、薄給に甘んじても自分の職責を全ふする官吏は表彰して貰ふやう御願したい、表彰の方法は幾らもある
 尚知事に於かれては郡下の統制に慎重を期して貰い度い、郡下の事務を執行する態度は常に成功を考へてやる様に充分と監督に万遺憾なきを期し必ず成果を結ぶやう最善の努力をして貰ひ度い
 尚教育の根本方針は今更云ふ迄もないが六・三・三を教育制度の根本策として進んで貰ひ度い、来年早々必ず判然として制度の表はれる様特別の考慮が願ひ度い、尚一言したいのは総ての議案は議会を通じてから執行して貰ひ度い、議会は諮問機関と云ふが実際はそうではない、沖縄民政府の議会とは全然違ふ、所謂沖縄には公民はいないし又宮古とは違ひ極端に云へば要救護者であるからだ、以上の見地より沖縄議会と宮古議会とは自ら違ふ所であります、尚又今後民意を尊重して議会と当局とがっちり組んで行く所に民主政治が生じて来ると思ひます、議会に諮らず事を成すといふことは絶対にない
 根本問題として目標がなければならない、即ち国是、町村是の確立が絶対に必要であります、宮古は云へば一国であるから目標といふものを樹立しなければならない、宮古は大海の小舟と同様で自力に依って生きて行かねばならない、宮古の再建に十二分の努力を尽すには宮古の国是を必ず確立されなければならない、教育、産業、都市計画と云ふ風に必要な所を掘り下げて考へねばならぬと思ひます
 金融機関として知事に於かれては銀行の設置或ひは郡民の貯蓄心の涵養尚又簡易保険制度の確立をして貰い度い、つまり人民の貯蓄熱を集めて金融事務経営に必要なる事項を充分検討して事がうまく行くかどうかその結果を充分研究して貯蓄心をあふって金融機関の確立を期するやう御願します
 要は知事にある
 軍政下に於ては、毎日軍政府に折衝して郡の諸問題に対しては正しい理解を求めると共に諸問題に対しては勇敢に折衝して郡民の福利増進を図って貰ひ度い宮古の光は知事から生れ知事によって明るくなる、以上御願して十八号議案一九四七年度宮古民政府歳入歳出追加更正予算議定の件及二十号議案一九四七年度特別会計宮古民政府公益質屋歳入歳出予算議定の件の二案の原案を認めたい
○知事 待遇問題に対しては全く感謝に堪へない、充分行き届かない点もありますが何分予算の関係もありまして今回は意を充たすことは出来ない、然し部下は使用人根性を出して俸給の分しか仕事をしないと云ふ者はない、互ひに自分の使命の重大なるをよく戒めて充分の指導をして行き度い、反省しても反省しないと云ふやうな者が一人でもいれば自分は切ることを断行して行く積りであります、それから事業を執行する為には必ず成功せよと云ふことには自分も同感であります、必ず最善の努力を致し度い、教育問題の確立、金融問題は早急に実現を期するやうに努力したい、尚議会の意志を尊重せよとの御話がありましたが之又同感であります、自分は民意を無視して事をやると云ふ意志は毛頭ない、民意を尊重してよい所は取り入れて実行して行き度い、それから沖縄は要救護者ではないのであります、それは沖縄と宮古と事情が異なっているからであります、議会の運用には注意して行き度い、一々皆さんの手数を煩はすのが建前でありますが緊急の場合が多いので御諮りする事が出来ないことは御諒承願ひ度い、それから行政面に於きます宮古の国是の確立を根本方針としたいことは同感であります、専門知識を有する者を網羅しましてそういった機関を設置したい、この点より検討して善処したい、金融機関の問題は至極尤もな意見であります、今後金が廻るやうに善処したい、郡の建設に関する御意見は今後共最善の努力を致したい、自分は虚心坦懐でありまして心にもない御世辞は出来ないが誰方にでも笑顔で迎へております、何しろ忙がしいので時たま感情を損ねる事もありませうが努めて御趣旨に添ふやうにしたい
◎議長(與儀達敏) 二十一番の動議の第十九(八カ)号議案一九四七年度宮古民政府歳入歳出追加更正予算議定の件及第二十号議案一九四七年度特別会計宮古民政府公益質屋歳入歳出予算議定の件は原案通り確定議に附したいと思ひますが如何でせうか
  (賛成賛成と呼ぶ)
◎議長(與儀達敏) それでは第十八号議案及第二十号議案は可決確定致しました
◎十四番(粟國浩和) 自分は平素の気持を云ひ度い、私は軍政下にあって人間らしいその日その日を送っている現在、私達の頼みとなるのは知事であります、軍政下にあれば右或は左と云ふ生活といへばそれ迄だが吾々は元気一杯で生存している、生きている以上不平不満もあり又やっても云ふても見度いのは人情だ、但しやり方云ひ方は個人に依って異なっている、この立場から論を進めて見たいと思ひます、私が無理解なる為に当局を歪曲せんとするものではないが、楽土建設の実現を期す為に一言したいと思ひます、即ち民政府の職責とは軍政府の命令により之を代行する機関であり、そして民との間に介在して円滑に職務を遂行する機関であることは申すまでもありません、郡民をして命令布告を遵守せしめると共に民情と相違する点は郡民の親として知事は軍政府と緊密なる連繋をとると共にどしどし進言して諒解に努力するやう全力を尽して貰ひ度い、民意を尊重する軍は民政府の意見に徴して総ての事を処理解決して来た事は感謝感激に堪へない所であります、今迄民政府は一にも二にも只米軍政府の命令だと茶化して来たことはなかったか、民政府の都合の良いやうに事をやったことはなかったか甚だ疑を挟む者であります、例へば総務部長が自分で立案して自ら議長となり、そして執行の任に当るといふことは甚だ不合理極まるものと思ふ、当初は郡議の補充に当っては之迄町村長に一任と云ふことになって居た事は承知の事実であります、教員組合と市当局との間に一大問題が惹起したが、之又軍政府の命令なりとして手も足も出なかった事もあります、議長の上里氏が逝去し之が補充として之又総務部長しか議長兼任といふ命令があった、命令だから已むを得ない、不合理なことは不合理なりとせないで之を合理的に考へてやるのが民政府の職責だと思ふ、斯うした事が重なって行くと民主政治どころか独裁政治と云はれても弁解出来ず結局米国の提唱する意志に反することになる、一般民にして見れば迷惑千万な政治であり、戦前に於ける独裁或ひは弾圧政治に対しては吾々はもう飽き飽きしている、政治の明朗化即ち郡民の疑念を抱かしめるやうなことがあってはならない、即ち問題の如何に不拘細大洩らさず公報を作成して民政府の立場を明らかにするやう御願致します
 次は協力と云ふ点でありますが最近はどんな問題に不拘宮古再建の事ならば協力すると聞きますが何時の時代に於ても協力は必要であります、殊に建設時代に於てはこの協力が最も必要だと信じます、今迄の過去を清算して宮古再建に協力一致して行くことが極めて緊要だと思ひます、而して真の協力は議会を通してでなくては又望まれない所であります、即ち官民一体となって全智全能を集結してやって初めて宮古の将来は約束出来ると信じます
 それから官吏の態度の点でありますが、現在宮古の官吏の中には日本時代に重要ポストにあった人が今だに過去に於けるが如く弾圧思想、封建思想に終始している人がある、本人は或ひは忘れよう忘れようと努めているかも知れないが、官界に居ると矢張りどこかにそうした官僚的思想が現はれるのは誠に遺憾である、私は時の流れに任せて一層のこと沈没したらどうかと思ひます、自由を与へられた今の時代に公僕として真の楽土建設に上も下もなく渾然一体となって身を捧げねばならぬ時に、何時も部下として上官に対してびくびくして居ては駄目だと思ひます
○知事 民政府は今先の御意見通り軍と民との中にあって、かすがひであり、くさびであります、この点将来共郡の福利の為に挺身して行き度いと思ひます、小さい名誉心の為に自分は来なかった、立派な仕事を皆様の御援助によりましてやり、そして惜しまれて死にたいと常に思って居ります、やるべき仕事はベストを尽してやって見て若しそれが出来なかった場合は何時でも責を負って辞表を出す覚悟で居ります、間違った点は今後共是正して行き度い
 八万郡民を代表して軍政府にどしどし御願して凡ての事を処理して行き度い、将来共皆様の御指導御鞭撻を御願して已まない、議長の問題でありますが総務部長も何も好き好んでやらないのでありますが、現在の機構に於ては軍の命令でありまして軍政府が機構を改正しない限り是正出来ない、それから軍政府の名を借りてやった事実があればそれを指摘して下されば結構だと思ひます、それから今後軍政府と常に諸問題に対しては折衝して抜かりのないやうに努力したい
 尚私共が官僚主義だと云ふ点でありますが決してそうでない、皆血を分け合った郡民でありまして貧富もなく一視同仁の気持で自分は取扱っております、正しい意見に対しては悪い感情は毛頭ない、而も建設的意見に対しては飽く迄もそれを尊重している、良心に反しない様に自分はやって来ている積りでおります、而も人間だからたまには欠点もあり又悪いところもあり是正すべき点があると思ひますので、その点は指示して貰い度い、官僚的だと云ふことがありましたが、真面目に自分の使命を果たしているものはびくびくするやうなことはないと思ひます、自分は何時も云っている事でありますが上司を引きずり廻す丈の事は自信と信念を持ってやれと云ふています、私始め反省すべき点が多々あると思ひます、長期間官界生活に居った関係で人間でありますから弱点もありますので将来反省して共に行き、かりそめにもオイコラ式は絶対ないやう努力したい
 大要以上の如き答弁があり之に対し
◎十四番(粟國浩和) 御精神を判然分って有難ひ、郡民に政治を行ふ上に於ては疑念を起さしめないやうにくれぐれも御願します
◎議長(與儀達敏) 時間も大分遅いやうであります、ここに意見書が出ておりますので朗読致します
    意 見 書
  沖縄中央銀行宮古支店設置に関する意見書
本郡に於ける逼迫せる金融を改善し其金融難の緩和と金利の低下を期するには沖縄中央銀行宮古支店を設置して流貨保管額の増加を図り以て通貨巡廻率の増進と金融機関の職能拡大を図る事は其基調なりと思料す依って之れを本郡に設置せしめらるる様宮古議会の名に於て軍政府へ懇請あらん事を要望す
 一九四七年七月十日
   議会議員  嵩原 重夫
         玉城 玄教
         砂川 惠一
         砂川 玄令
         砂川 玄仁
         伊志嶺玄良
         平良 一夫
         粟國 浩和
         高里 景親
         池村 好雄
         塩川 寛誠
         砂川 惠知
         島尻 秀信
         平良 金一
         垣花 惠辰
         藤村 市政
         譜久村 善
         下地 盛壽
         亀川 惠信

 農業組合補助に関する意見書
 各市町村に於ける農業組合は民政府の命に依り組織せられたるものにして農業増産の最大限度に要請せられる今日其活動促進は最も緊要なる事なるも設立後日尚浅く資金欠乏の為事業遂行上困難なる状態にあるを以て農業組合に対する補助の増額に就て特別なる御高配あらん事を要望す
 一九四七年七月十日
   議会議員  嵩原 重夫
         粟國 浩和
         高里 景親
         砂川 玄令
         下地 盛壽
         玉城 玄教
         砂川 惠一
         砂川 玄仁
         伊志嶺玄良
         平良 一夫
         池村 好雄
         塩川 寛誠
         砂川 惠知
         島尻 秀信
         平良 金一
         垣花 惠辰
         藤村 市政
         譜久村 善
         亀川 惠信

  市町村に対する配給売上益金の還元に関する意見書
米軍政府より配給せらるる物資売上に依る益金は市町村民の負担に依るものなり戦後市町村財政は財源涸渇し窮迫に陥りつつある状態にあるを以て民政府に於ては現下の情勢に於て市町村行政の重要性に鑑み配給物資の売上高の中、軍政府へ納入すべき四割の代金を差引き残りの六割より其四分の一を市町村財政補填の為還元方に関し議会の名に於て知事へ要請せられんことを望む
 一九四七年七月十日
   議会議員  嵩原 重夫
         砂川 玄令
         玉城 玄教
         砂川 惠一
         砂川 玄仁
         伊志嶺玄良
         平良 一夫
         粟國 浩和
         高里 景親
         池村 好雄
         塩川 寛誠
         砂川 惠知
         島尻 秀信
         平良 金一
         垣花 惠辰
         藤村 市政
         譜久村 善
         下地 盛壽
         亀川 惠信
  (朗読後知事に提出)
◎十八番(嵩原重夫) 今朗読した意見書に対して議員全員協議の上提出したやうな次第で、当局に於かれましては全員の意のあるところを体しまして御再考が願度い
○知事 出来得る限り善処して御期待に添ふやうにし度い、今の意見書を民政府の施策として全力を尽し度い
◎十八番(嵩原重夫) 只今の御答弁に感謝致します、意見書の通配給売上益金が相当あると思いますので是非お願致します
◎二十一番(玉城玄教) 所得税調査は最も重要だと思はれますので現在の委員では不充分だ、もっと各階級に亙ってその道に明るい人をあげて異議申立のあった場合は今の人で之を処理するやうに、つまりこうした代るべき委員の設置が必要だと思ひます
○知事 私も今の御意見に対しては賛成します、御期待に添ふやうに致します
◎議長(與儀達敏) 閉会宣告(午後七時)

 一九四七年七月十一日
  宮古議会議長 與儀 達敏
    議会議員 下地 盛壽
    同    伊志嶺玄良
上へ戻る